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「平成版 起業家入門!会社の使い方」
「会社に使われる」時代から「会社を使いこなす」時代へ



 CONTEXT>
 1.会社を使い切ることを考えよう
 2.自分は他人に何を提供できるか考えよう
 3.大切なのはお金より能力だ
 4.つぶしがきく人材になるために現場主義を徹底せよ
 5.与えられた仕事に何を付加できるか
 6.既存の制度の崩壊―年功序列や終身雇用は成り立たない
 7.会社を超え徹底的に使いこなせ
 8.大きな変革の時代をポジティブにとらえる
 9.常に仕事をつくり出す側の人間になろう
 10.会社は利潤追求のための組織

 11.自分の能力をいかに客観的に評価するか

 12.会社に属していることのメリットを再確認する
 13.今、精一杯やることが明日を切り拓く
 14.人間関係をオーナー社長に学べ
 15.異質な人との付き合いが自分を育てる
 16.人と人とのコーディネート力を身につけよ
 17.自分の顔をつくれ
 18.フィルターをはずし、足元を見据える
 19.人脈=金脈という構図
 20.会社の見方と自分の見方との違いを明確にしてお
 21.会社のさまざまな場で話術を磨く
 22.人付き合いの基本がすべて学べる
 23.あなたは何ができる人なのか
 24.あなたが多くをギブできる相手を大切にしよう
 25.一期一会の記念に自分名刺でアピールする
 26.自分の会社の武器を知る
 27.勉強会や異業種交流会へ繰り出そう
28.ライバルとの勝敗を糧にする
29.外回りで眼を開く



29.「外回りで眼を開く」

 あなたが、もし営業部門などに属していて、外回りが多いとすれば、それは非常に大きな役得である。そこで気づいた他社のすぐれた点などがどんどん吸収できる。
 たとえば、取引先の企業を訪問した際には、受付嬢の対応、制服、周囲にいる他の客の様相、さらにオフィスや工場のレイアウト、インテリア、エクステリア、飾ってある絵から使ってある建材まで、興味のもてる部分は全部チェックしよう。そう、有能な探偵や刑事になったつもりで、眼光鋭く見回るのだ。
 何も取引先や顧客先だけではない。外回りの途中に利用する交通機関、ホテル、飲食店まで、すべてを経営やサービスという面からとらえ、評価してみればよい。
 特に、ショーアップされたもの、人目をひくもの、古いもの新しいもの、面白いもの、変だと思ったものには注目しよう。
 デジタルカメラをもって、写してみるのもよいだろう。とにかく、こうして毎日の仕事をより楽しんで過ごすことが大切だ。そうでないと、人間の頭や体は、うまく働かないからである。

 あなたさえその気になれば、接する人、見るもの聞くもの、すべてが師となる。外回りを仕事としている人は、そうした機会にとても恵まれているのである。しかも交通費や打ち合わせの経費はすべて会社がまかなってくれる。いったい、年内でいくらになるだろう。こんなに美味しい話はない。
 タクシーのドライバーの話は、大きなヒントとなることが多い。彼らは、いろんな街を走り、いろんな人と会って、多くの生の情報を得ているのだから。この、タクシーの運転手のアンテナをもとう。
 外回りからは、社内だけで業務をしていると絶対に見えてこないヒントが、必ずや得られる。その積み重ねが有形無形の知識となり、いつの間にかビジネス能力を高めてくれる。
 たまに、内勤の人におみやげを買うと、おいしい情報が入りやすくなるはずだ。もちろん、おみやげ話のほうがよいといわれるくらい、話力をつけたいものだ。外回りは、仕事、社会の最高のマーケティングである。




28.「ライバルとの勝敗を糧にする」

 学校でも、靴に恋文を入れたり、校門の電柱のかげでこっそりと見ているのが、あたかも変態よばわりされて、ネ暗人間と唾棄されるようになってから、どこか情というか潤いがなくなってきたように思う。
 もし、会社のあなたのデスクの上に、いきなり見知らぬ奴が立ち、「おまえが生涯のライバルだ!」なんて名指しされた日には、ムクムクとやる気がみなぎってくるかもしれない。
 しかし、向上心があれば競争相手というライバルもでてくるはずだ。どんなに人間は平等といっても、ほとんどの人は相対的な差によって、自己を確認して生きている。誰でも、貧しいのは平気でも、まわりの人より貧しいのは嫌なのだ。実質、クローン社会になりつつあると思われるこの“個性化”時代の現在でも、人と違うから自分であるのは疑いもない。ならば、あえてライバルをもつべきなのだ。

 ところが、自分を認めるために他人と同一線上で比べたくないと皆が思うようになってきた。
 現に、子供の運動会でも平等のため、順位をつけないというところがあるらしい。これは、子供の意欲をそぐ。たかだか競争というゲームなのだから勝敗をはっきりつけたほうがよい。一方、出場すると全力疾走する親も多い(これも恐ろしい遊び心だ)。勝っても負けても大したことのないことを知っているからこそ、余興として楽しもうとするわけだ。その一所懸命の遊び心が、仕事にも必要でなかろうか。
 人間、できないことがあってよいし、失敗もするものだ。だから、どうってことではない。リレーなども、大きな責任をもって出た人が失敗しても許されるから、人間の社会である。会社もサラリーマン社会も同じである。ビジネスというゲームを楽しむために、好敵手をもち、真剣に競おう。




27.「勉強会や異業種交流会へ繰り出そう」

 僕は、勉強会については、自ら主宰したり会報を出したり、他の主宰者を取材したり、そのプロデュース、運営、司会、講師など、あらゆる方面からずいぶんと関わってきた。
 そこで気づいたことは、本当は会社のことから語らないようにしたほうがよいということだ。名刺交換に加えて、会社の話に終始していたら、いつもと同じだからだ。
 確かに、仕事もその人が選んだものだから、趣味や家族のことよりも、その人を多く語っている面もある。だから、仕事の話もよい。他の業種の人が初めて聞く話なら、興味をもってくれるだろう。でも、異業種の会社の人に、自分のやっている仕事を表面的に話しても、かみあうわけない。

 「私は肉屋です。肉売っています。」「私は魚屋です。魚売っています。おたくはどんな肉を。」「牛が半分、最近はブタが多いですね。」こういうやりとりでは、おあいその交換でしかない。「今年は景気が」とか「主婦のサイフが固くなって」とか、共通の話題から、人間や社会の中に深く入り込むことだ。そうでなければ趣味の話のほうがよい。これも表向きではつまらない。何でもよいから、あなたの目が輝き、生き生きするほど語りたいことを目一杯、情熱的に伝えよう。そういうことのもてる生活を目指そう。
 自分のやっていること、やりたいことを熱く語ろう。今、自分と相手が何をやっていて、これから何をやりたいかを語ろう。



26.「自分の会社の武器を知る」


 会社は、もともと会社としてあったものではない。誰かが何かをつくり出し、それをうまく社会に提供できるようにシステム化した形が、そうなったものにすぎない。ところが、いろんな人が巣くうにつれ、そのことがよく見えなくなってきていることが多い。
 いまだ、経営者が社員を搾取して利益をあげるために会社があるとでもいうような、幼稚な考え方をしている人も少なくない(もちろん、そういう会社のあるのは否定しないが…)。しかし、オーナーの日々の努力や労力からみると、少なくとも日本ではオーナーはその取り分を会社に随分ととられている。株主もそう潤ってはいない。株主のための会社が、いったい何をしているのかと思われることも多い。

 社員は雇われているというだけで、固定給が確保できる。それなら闘争は労使でなく、働いた人が働いていない人に対して起こすべきだろう。本当に働けない人は、社会的弱者として保護救済されるべきだが、働くことに価値をおいていない人が、そこから得た成果だけ求めてもっていくのは盗人に等しい。

 ともかく、どの会社もその創立以降の社会と時代とビジネスの歴史を叩き込んでいる。そこに多くの先人の思想や考え方がつまっている。そのポリシーや判断基準を学び、変えるべきところと変えるべきではないところを明らかにしないと、仕事にもどう対すればよいのかわからなくなる。
 まして、自分勝手という間違った“個人主義”思想とでもいうべきもので自分を主張することだけが大切のように間違って教えられてきた人は、いつまでたっても会社が自分を支配する原理に違和感をぬぐえないだろう。

 これを解決するのはそんなに難しいことではない。自由も自己主張もよいが、すべて自分で責任とリスクをもって行なうということだ。会社の金を使って失敗したら、自腹を切る覚悟なら、そうは間違えないはずだ。会社という組織の不透明さの中に逃げ込んでいるのは、トップや上司だけと思うのではない。あなた自身もそうであるかもしれないことに気づいてほしい。

 ということで、社史、そして業界史、経済産業史を、自分の会社を中心に学ぼう。もちろん、地域の歴史も、創業者の家系や歴史もそれに加えたい。歴史はくり返す。賢者は歴史に学び、愚者は事件に学ぶという。歴史に関心のある人は高度のアンテナをもつといえる。会社の中で行なわれてきたことには、本当に生きるために役立つ大きなヒントがたくさん隠れている。自分の会社の過去から未来を探検してみよう。



25.「一期一会の記念に自分名刺でアピールする」

 自分なりの肩書きを創造したら、ついでに名刺もつくりたい。最近では、会社の名刺以外に「こういうこともやっています」と、別の名刺をくれる人が少なくない。私はこれを「自分名刺」と呼んでいる(勉強会の仲間が使っていたのを拝借した)。
 会社の仕事関連で出会った人に、そんな名刺を渡すのは失礼と考える方もいるだろう。だが、人脈を広げる効果を考えるなら、場の雰囲気さえ許せば、是非「自分名刺」を活用したい。二枚目の名刺があるというのは、その人がプライベートな生活を大切にしており、自分の生き方を発信しようとしていることの表われだからである。

 名刺の作りも工夫したい。前項で述べた肩書きを使い、デザインにも凝りたい。とくに女性などには、きれいに手間をかけてつくった自分名刺が多く、人柄がしのばれるようなものもある。自宅のアドレスや電話なども問題がなければ載せよう。あくまでも、会社の名刺とは別物であることを相手に知らせたい。
 私自身は、名刺としては氏名・連絡先だけのものと、これまでの著書を入れたものとの二通り用意している。名刺にあまり情報を詰め込むのはよくないと言う人もいるが、私のように説明しにくい仕事の場合は、著書一覧も自分を示す重要なデータになるからである。

 出会いはきっかけにすぎない。出会いを活かすのは、その後の相手に対する心遣いである。名刺は唯一、出会いの後に相手の手元に残る具体的なものだ。イメージや印象とともに、相手の手元に残るお土産なのである。だからこそ、こだわらなくてはいけない。
 会社の名刺では印象に残らない人も、もう一枚の自分名刺を出されると印象が強まる。それは一回の出会いにおいて、大変に大きな効果である。自分の写真(プリクラでも可)を名刺に貼っておくのも一手だろう。会ったことは、名刺とあなたの○○でしか相手には残らない。(○○は自分で入れよう)



24.「あなたが多くをギブできる相手を大切にしよう」

 
社内での人脈を築く際に注意すべき点は、いくつかある。サラリーマン特有のくせは、上を見上げ、下を見下すことだ。そんな上下関係はいつまでも続くものではない。むしろ、いずれ逆転するものであることに気づかなくてはいけない。
 上はやがていなくなる。それに対し、あなたの後輩や部下は、これからもずっといて、能力も上がっていく。大出世するかもしれない。将来を見据えたときには、若手のほうがずっと魅力的だ。

 若手には時間と可能性がある。あなたが与えられることもたくさんある。さらに、誰でも若いときには周囲に認められていないし、常に自己が揺らいで自信もない。そういう時期の親身の付き合いは、大きな意味をもつ。つまり、あなたがギブできる部分が大きいからである。
 私も若く、力がない頃に目をかけてもらった人のご恩は忘れがたい。お金で例えるなら、今の一〇〇万円よりも、そのときの一万円のほうが重いのだ。逆から言えば、そのときの一万円は、将来の一〇〇万円以上の価値があったわけだ。

 会社という組織は、さまざまな世代の人間が同じ場で過ごす機会を与えてくれる。これを活かさない手はない。自分より目下の人と良好な人脈を築くことに力を入れよう。長い目で見れば、必ずやその付き合いがあなたによい影響を与えてくれるだろう。自分とは異なる世代の新しい価値観を学ぶこともできよう。
 だいいち、目上のお偉いさんに卑屈に近づいたところで、彼らのなかでは、ワンオブゼムの域を出ないだろう。彼らの目は、それまでに助けてもらった人のほうを向いているのだから。人への先行投資は、時間を経て豊かに実る。



23.「あなたは何ができる人なのか」

 会社の役職は、もはや会社内部と取引先には通用しても、それ以外ではたいして効力はなくなりつつある。そこで自分自身の肩書きを創造することをお勧めしたい。なぜならば、会社と会社での仕事を外したあなたに、どのようなセールスポイントがあるかを自分でも考え直すチャンスになるからだ。
 その肩書きは自分で考え、人から「あなたは何ができる人なのか」と問われたときの答えになるようなものにしたい。相手に対して、何を提供する能力があるのかを示せるインパクトのあるものがいい。

 私も自分を説明するキャッチフレーズとして肩書きをつくっている。以前は、関わっている会社やマスコミから与えられたものとして、プランナーやクリエイター、コーディネーター、プロデューサなど、いろんな肩書きをもっていた。しかし、いまでは社会的慣習に従った「代表取締役」とともに、「ヴォイスメディアアーティスト」という肩書きを創造した。聞き慣れない肩書きだけに、相手の印象に残る効果をもっているようだ。

  「この人はこんな会社でこんな仕事をする一方、こうした面も合わせ持っているのか・・・」と、相手に感じさせる効果は大きい。名前を覚えてもらったり、人脈を広げるうえでも有効な武器になるはずだ。また、それ以上に、肩書きに恥ずかしくないような能力を身につけようと、自らを叱咤激励することに意味がある。

 名前は親からもらう。肩書きは普通、会社からもらう。しかし、自ら付けることもできる。そういった意識で、自分の肩書きを創造してみよう。新しい言葉でつくってみよう。そのことによって、自分のできることを確認し、それを示して自立心を養うことが大切なのである。まずは、自分で自分に辞令を出してみよう。



22.「人付き合いの基本がすべて学べる」


 
会社は人脈づくりの宝庫である。多くの人がそこで働いている。毎日、同じ人がそこに集い、同じ目標のもと努力している。さらに、会社の仕事は多かれ少なかれ外の社会に働きかけているから、仕事を通じれば、さらに多くの人と接することとなろう。ところが、同じ環境に置かれても、周りの人の多くを人脈として築いていく人と、その逆の人がいる。また、会社の外にまで広い人脈をもっている人と、会社の外には知人がまったくいない人とがいる。それは部署や能力ではなく、人に対する価値観とスタンスのとり方の違いのように私は思う。

 確かに営業部門や企画部門のように、外に対する機会の多い人は、毎日、交換する名刺も多い。それだけ新たに人に会っている。それに対し、事務スタッフは会社内での付き合いがほとんどだから、新しく会う人は少ないだろう。
 とはいえ、仕事上で得た名刺の数と、人脈の質とは必ずしも比例しない。問題は、機会の多少ではない。それをうまく使ってポジティブに人と親しくしていこうとするか、反対に、できるだけ深入りしないように仕事は仕事として、それだけで割り切ってしまうかによっても大きく違ってくるのである。

 私は、極端だが、仕事は人と出会う手段だと考えている。多くの人との良好な人間関係こそが最大の財産だからだ。仕事は、そのあとにおちてくる。そこで皆さんにも、人とのポジティブな関わり合いを強くお勧めする。
 また、見知らぬ人に電話をかけたり会ったりすることに慣れており、まったく苦に思わない人、他人と会うのが楽しくて仕方がない人はあまりいない。そういうことをことごとく嫌い苦痛に感じる人もいる。この感覚の違いは人脈を築くうえでとても大きな差となる。自分の性格のために、これまでうまく人間関係を築けていないと思ったら、改善する努力をしよう。人とうまくやっていける能力こそ、何事においても基本なのだから。

 どこにいても人には知り合える。しかし、継続的に会って、お互いの身辺のことまで話すようにはなかなかならないものだ。せっかく話をしても、名刺交換もせず、氏名やアドレスを聞くまでに至らないことも多い。だから、そこだけで途切れてしまう。
 そう考えると、会社という継続の場があることはありがたい。さまざまな人が継続して出入りする会社であってこそ、人付き合いのあらゆる場面が訪れる。相手の所属、所在もすぐにわかる。何にしろイヤな人ともうまくやっていかねばならないし、大変なことも多い。そして、仕事があるため、逃げるわけにはいかない。となると、会社こそが人間関係を磨く最高の場だと言えなくもない。独立できる人が退社せず会社にいるのは、人脈のためでもある。



21.「会社のさまざまな場で話術を磨く」

 
サラリーマンビジネスをするうえで、コミュニケーション能力は特に大切である。自分の考えが的確に相手に伝えられないようでは心もとない。ただし、話し上手はよいが、「口がうまい」などと言われるのは、あまりよくないだろう。
 仕事上で必要な話術は、内容やしゃべり方そのものより、誠実さやサービス精神を感じさせるものでありたい。それには日頃から、自分の話し方を身につけ、自分の言葉を見つける努力が不可欠である。

 会社の朝礼や研修では、三分間スピーチがあるところも多い。多くの人はこうした行事を億劫なものととらえがちだが、それではもったいない。そこでの話し方向上の機会を活かせば、会社を超えて、どこでも役立つからだ。スピーチのトレーニングをさせてくれていると考え、前向きに取り組むことだ。
 さらに、会議や報告会では、その実践ができる。接客、応対から、セールス、会議、プレゼンテーションなど、仕事には話す場がたくさんある。こうした機会を前向きにとらえ、自分なりの話術を養成する場としよう。

 では、どうすれば効果的な話術を体得できるだろうか。まずは、話すことのメリットを強く意識することだ。人との関係は、すべて会話がベースとなる。自分の能力や価値、性格などのアピールも、すべて会話を通じて行なうものだ。言葉でアピールしなくては、あなた自身がいくらよいものをもっていても認められない。認めてもらうには話すしかないのだ。

 こうして、話すことのメリットを理解したら、次は、話すことの内容について徹底的に知識を深めておきたい。それが自分にとっては見えざる自信になり、ひいては相手に対する説得力となる。
 自信をもって話せるように、話材を調べておこう。手間ひまかけると、調べたことに思い入れが生じる。何としても人に伝えたいという使命感さえ感じるようになるだろう。そうなれば、話はおのずと展開し、面白いものになっていくはずだ。
 実際の話し方も大切だ。早口で平板な話し方は、結果として話し手の快感を満たすだけのストレス解消になってしまう。自信がないともとられかねない。

 表現とは、明確な意図をもって人の心を動かすことである。その働きかけのために、話、つまり声や言葉が使われるべきなのである。話術のポイントをまとめておくので、話すときは常にこれを念頭においてほしい。会社では、他の人、特に話のうまい人、話し下手といわれる人をよくみて、我身を省みよう。

・核心から入る−主旨不明なのが一番わかりにくい。
・目的をはっきりさせる−目的を遂げてこそ、話である。
・聴き手の聞きたいことと、自分の話したいことをしっかりと結びつける。
・人前では大きく見えるように振る舞う。 




20.「会社の見方と自分の見方との違いを明確にしておく」

 
サラリーマンを長くやると、どんな人でも、自分の会社のなかのちょっとしたことに目ざとくなってくる。もちろん、そのおかげで、仕事はやりやすくなる。それを妨げるようなことは予め、回避できるようになり、社外のことも察知できるようになる。社内の人に対するにも、TPOに応じ、求められるように動き、気遣うことも苦でなくなっていく。
 つまり、こうしてサラリーマンの処世術にたけてくるわけだ。これは、自分の会社で労せず過ごしやすくすることを覚えたということだ。しかし、これは本当の実力がついたこととは全く違うことである。いや、逆に、こういうことを身につけたため、自分の会社以外のところでやっていける力が出せなくなっていくこともある。

 それだけではない。他方で、外の情報は社内で伝わるようにしか受けとらなくなる。上の人たちの判断や読みとり方に従い、自分で考えなくなるからだ。そのほうが楽で、かつ社内での間違いはないからである。しかし、本当の意味においては、正しく判断できなくなっていくわけである。会社で間違った判断でものごとが進められていても、それを外の眼で見ることのできる人物がいない限り、気づかないものだからである。

 たとえば、仮に会社が、A案なら二倍の売り上げのところ、B案を選び、一.五倍の売り上げになったとしても、A案が見送られ実施されなかったら、誰も気づかず、大成功としておわってしまうわけだ。こんなことは、よくあるはずだ。これでは独裁国家下の人民のようなものだ。確かに入社してからは、社内のことに精通することも大切だったであろう。仕事やそこで接する一人ひとりの人間に対する考察も望まれただろう。そして、一つの会社にいれば、その力は確実についていく。

 しかし、そのプロセスにおいては、いろんな疑問が出たはずだ。それは、いったいどうなったのだろうか。その後、それをつきつめていき、考え、変えていくようにしてきただろうか。多くの人は、そのあとの年月は、それをうやむやにし納得するだけで、本当に理解し疑問をつきつめることをしなかったのではないか。今からでも遅くない。一つずつ洗い出して、見つめ直そう。新入社員の眼で社内を見よう。社外の情報は、今ではいろんなメディアを通じて、採り入れることができるはずだ。そこから得た視点をもって、社内のことにも目を光らせ、いつも他の社員が考えつかない視点をもっているようにしよう。



19.「人脈=金脈という構図

 ビジネス社会においては、人と人との関係もまた、数字やお金に置き換えられる。非情な言い方をすれば、そこでの人脈は金脈なのである。もちろん人付き合いが、即、お金になるなどという短絡的なことではない。人と助け合うような関係をもち続けることが最も大切であり、それが引いてはお金さえ生み出すという意味である。お金は、紛れもなく価値を数量化したものである。あらゆるお金は、人の手を伝わって流れている。どんな手段でお金を得たとしても、必ず人を通してお金を集めたはずである。それは、間違いない。お金持ちも同じである。

 ここで、人間関係をすべて損得勘定で計れというのではない。しかし、人間関係をしっかりとらえるためにも、一度「人脈=金脈」という構図に立って考えてみるのは、大いに意味があると思う。たとえば、あなたが窮地に陥ったとき、どれだけの人がどのくらいお金を出してくれるか考えてみよう。お金を出してくれない人が人脈でないとはいえない。しかし、それっきり冷たく離れていってしまうような相手は、やはり、それだけの関係なのだといえよう。自分の人脈とはいえない可能性のほうが高い。

 仮に五万円でも一〇万円でも出す人がいれば、あなたの何かに信頼を置いているわけだから、活きた人脈であることの一つの証拠にはなる。つまり、お金を出さないから人脈として頼りにならないわけではないが、出してくれる人は、やはり何か強いものがあなたとの間にあるということだ(場合によっては、あなたをいさめるために強いて出さない人もいるだろうが)。

 どうも日本人は、何事もお金とつなげて考えると眉をしかめがちだが、それはおかしな話だ。私たちの多くは、お金を得るために仕事をし、そのお金で生活をしている。サラリーマンなら、尚さらそうだろう。そして、お金を手に入れるには、人とのつながりは不可欠だ。好き嫌いは別にして、この事実を認めることだ。
 親兄弟でも、お金が絡むと修羅場になることがよくある。しかし、ビジネスは、常にお金とともに進むものである。その修羅場を丸く収められるのが仕事の力である。力の源の大きな部分が人脈であることは間違いない。会社を利用して人脈を広げる際にも、そのことは常に意識しておきたい。



18.「フィルターをはずし、足元を見据える」


 
会社の仕事や基本行動のあり方を、本当に自ら能力を高めるために、もう一度、基本の意味を考え、踏まえて再び獲得するように、すでに与えられているものについても、もう一度見直し、確認し、意味づけをして、もっと活かすことをお勧めしたい。
 能力を身に付け、それを活かして生きようとする人とそうでない人の最大の違いは、自分の人生に対するコスト意識の違いからきているものだ。だから、自分に与えられた時間や場を精一杯活かすこと。まずはこの意識の徹底を図ってほしい。そのために、足元、つまり今の状態を見ることが大切なのである。

 たとえば、あなたが体の弱い人で一人で商売をやっていたとする。そうであれば、毎日の自分の体調には相当気を使うだろう。それなのに、会社にいるためにそれを怠っているとしたら、すでに安隠としすぎているということだ。何か事が起これば、一番先にやられてしまう。サラリーマンは、体をこわしても休めるから無理をしがちだが、休むときはしっかりと休むことである。

 足元を見るということは、会社があろうがなかろうが、ここで言うならば自分の体のことを知り、できるなら体を強くしておくということだ。休み時間なども社内の階段を歩けば、会社もスポーツジムとなる。体が弱いなら弱いなりに、どのくらい弱いのかもきちんと知っておくことである。そのうえで、自分のよいところを伸ばしていけば、色々と対応のしようもある。なまじ風邪一つひかない人より長生きできるかもしれないし、体が強いと思って無理した人よりうまくいくことが多いはずだ。

 人にはそれぞれのよさがある。それをうまく伸ばせば人生はうまくいくようになっていると思う。それを見過ごし、周囲に合わせてしまってうまくいかないようにしているのは自分自身であることが多い。それがあたかもサラリーマンの処世術、宿命であるようにとらえているのは、思い込みでしかない。

 ただ、それを会社という不透明なフィルターが助長しがちだということは知っておきたい。冷暖房完備の高層ビルにいると、四季が肌で感じられなくなるように、トップや上司のふるまいなどに影響されているうちに、自分自身のことがわかりにくくなるのが問題である。まずは、そうしたフィルターをはがし、自分の素顔を見つめ直すことだ。固定観念を捨て、自分と仕事とその関係をもう一度、捉え直してみることだ。何をやるにも、今の自分の身の丈、顔と頭を知ること、そこからすべてがスタートする。




17.「自分の顔をつくれ」

 サラリーマンとしての能力は、組織人として磨かれたものであったら、決して世の中を一人で生きる力と異なるものではない。現在のビジネス社会のなかでサラリーマンへの道は、大多数の人が選ぶものである。しかし、多くの場合、その選択は、人生八十年時代のたかだか二十年、つまり二十歳そこそこの時点で行なわれたことである。そこから色々と成長したのにも関わらず、会社という名のもとにサラリーマン社会はそういうものと決めつけ、見直さないとしたら、それが問題である。

 サラリーマンでも、しっかりと自信をもち、よい仕事をしていれば、それはおのずと顔に出てくる。よい生き方かどうかは、他人がとやかくいうことではないが、結果として、その人の目や顔つきにでてくる。もちろん、日本人は能力を表立って誇示したり表情に出すことに慣れていないから、そのまま受けとめられないときもある。
 しかし、魅力的に生きている人は、やはり魅力的なのである。それはどんなに隠したくとも隠しようがない。その人の香りがにじみ立ってくる。色気となって出てくる。

 そして、そういう人はやはりパワーがある。テンションが高い。たとえ、仕事の能力が少々、同世代の人より劣っているようにみえても、出世競争にとり残されていても、それをカバーしてやっていけると思わせるものがそこにある。
 もっと大きく生きているから、会社や上司が対応できていないということもあるわけだ。そういう可能性がそこに匂っていたら、誰もが見守りたいと思う。将来を見たいと思わせることが、まずは本当の力なのだと思う。

 だから、社会人としての顔をつくることだ。これが大切だ。メイキャップに頼るのではなく、内面がにじみ出てくる顔をつくる。やってきたことは表情や言葉に出る。顔はつくりたいからといって、整形してもだめだ。それは、あなた自身の行動がつくりあげる。四十歳からは、発する言葉にも顔にも責任がある。あなたの瞳の奥にうつる可能性に人は惹かれるのだから。




16.「人と人とのコーディネート力を身につけよ」

 多くの人のなかでうまくやっていけるとか、人と人とをうまく結びつけられるなどという折衝能力は、サラリーマンにとって大きな価値である。そういう人は、たとえ仕事上で何もつくっていなくても、大きなものをつくっていることになる。こういったことを書くと「私もそうだ」と思う人が世の中にはたくさんいる。けれど、実際には、他の人とのたいした利害関係も厳しい共存関係にも踏み込むことなく、そのように思っている人は少なくない。

 たとえば電話一本で、その人からビジネスへの協力を引き出せるという関係であってこそ、はじめて人脈といえるわけである。人と人とのコーディネートはとても大きな価値であるが、とても難しいことなのだ。おおげさにいえば、全人格をかけた勝負なのである。しかし、この人間と人間の間にうまく入るという、まさに人間くさい才能は、へたなスペシャリストをしのぐものである。

 会社にいれば、社内の人同士、社内の人と社外の人、社外の人同士と、色々な人を結びつける機会があるだろう。その見返りは、より充実した人脈ということで自分に戻ってくる。会社で身につけられる能力として、最も意味のあるものの一つが、この人と人をコーディネートする能力であることは確かだ。仕事は人と人との間に生ずる。そうではない仕事はない。そこに立ってみてみよう。




15.「異質な人との付き合いが自分を育てる」


 会社のなかにはさまざまな人間関係がある。当然、すべてが気持ちのよいものであるはずがない。どこにでもそりの合わない人や、気に入らない人というのは存在する。とくに嫌な上司の下で働くのはきついものである。普通なら、そんな人と仕事をするのは避けたいと考えるだろう。
 しかし、逆に、そこから学べる部分ほど多いものはないと信じることだ。人間関係のきついところで“奉公”すれば確実に力がつくものだからだ。いずれにしても、社会のなかで仕事をする以上、人間同士の関係から逃れるわけにはいかないのだから。

 もしあなたがそんな状況にあるなら、我慢を覚え、気に入らない人間とも円滑に付き合いができるよう前向きに努力をしよう。自分とは異質の人間が、どんな考えをもっているのか理解する好機だととらえよう。あなたの力がつくほど、多くの人が関係してくるのは避けられないことである。力がつくとは、そういうことだからであり、それは喜ぶべきことなのである。もちろん、そのことで数多くの苦労をするだろうし、肉体的にも精神的にも辛いことは少なくないだろう。しかし、その苦労はきっとあなたの実力を伸ばし、周囲の信用・信頼を高めることにもなる。その逆境に感謝し、自ら虎穴に飛び込む勇気を失わないことだ。

 逆の意味で恐ろしいのは、ぬるま湯のように居心地のよい職場や人間関係に安住しきってしまうことだろう。何をやっても許されるような環境で、何も気づかず学べず年をとってしまえば、もはや取り返しはつかない。あなたが変わりたくなくとも、状況は、必ず変わるからだ。
 だから、自ら人間関係のきついところ、自分とは異質の人のなかに飛び込むのである。これこそ、会社以外では、やれないことであろう。そこで勝ち得た信用と自信は、何ものにも代え難いほどのものとなるだろう。
 自分の力を伸ばすのは、常に気づきであり、それには異なる刺激が必要である。もっともふさわしいのは、自分と異質の人間である。

<異質な人から何を学ぶか>
・その人たちの人生観、価値観
・判断基準、考え方
・その考えの出てきた背景、原因
・その人たちの生活、環境
・その世代の特徴とその人の特徴(違い)
・その人の生きてきた時代、背景、事件



14.「人間関係をオーナー社長に学べ」


 人やものの見方を一番わかっているのは、ビジネス界においては、やはりオーナー社長であろう。何といっても、人のことで多くの苦労をしているからだ。信じては裏切られたり、だめと思って覚悟を決めては報われたりするような経験を経て、勘が冴えている。
 その割に、社長の評判はよくない。どうしてだろう。社員から、いくら人使いが荒いとか厳しいとか言われていたとしても、本当にそれだけの人間なら会社はとうに潰れている。そこで発想を変え、社長にも何かよい点があるからこそ、会社は続いているという見方をしてみよう。そこから何を学べるかだ。

 人間の器の大きさとは、いかに相手のよい部分を認め、悪い部分を許せるかであろう。ところが多くの人は、相手の悪いところばかり見て、よいところを見ようとしない。それもほとんどは、自分が実際に見てもいないし確かめていない風聞(風の便り)によったものである。オーナーが、他の人からどう思われていようと、あなたはあなたなりに、オーナーのよいところから最大限、学べばよいのだ。
 人間はそれぞれ、価値観・人生観も違うから面白いものだ。オーナーも人間である。いやむしろ、ビジネス社会において成功したような人なら、かなり人間らしい人間だとも思える。だから、オーナーの半生、自社の創業時のことなども、しっかりとらえ直しておくとよい。きっと、どこか好きになれるはずだ。

 もちろん、嫌いになることもあろう。それでも、どうしようもないほど嫌われ者だったり、ワンマンなオーナーほど勉強になるといえなくもない。それでも彼がオーナーをやっていけるのはなぜか。そこにポイントを絞ると何かが見えてくるはずだ。
 オーナーは身近にいる最大のキーマンである。その言動から多くを学んでいけば、あなたも自然にキーマンとなれるだろう。人間らしい欠点は、裏返って魅力となることを知ろう。



13.「今、精一杯やることが明日を切り拓く」


 私は、サラリーマンであろうとなかろうと、毎日を張りをもって熱く生きていればよいと思う。だいたい、サラリーマンという言葉にとらわれること自体おかしいわけで、それは便宜上の職名、会社員の別名にすぎない。日々挑戦と革新をしていれば、どんな道も拓けないはずはない。逆に、どういう人でも、今生きている場をよりよく活かそうとしなければ、よりよい将来など訪れない。
 サラリーマンにとって、今生きている場とは会社である。だから、会社をよりよく使えといっているのだ。会社はその期待に応えてくれるはずだ。期待に応えてくれないと嘆くより、自分の力を必要とさせるように働きかけるべきだ。スポーツ選手が使ってくれない監督が悪いなどとはいわない。使わせるのが、実力だからだ。会社が自分の力をつけるための時間や場所、お金まで提供してくれている以上、それも充分と考えてよい。会社を一つのキャリアアップの場として利用し尽くすつもりで使おう。

 たとえば、会社で新聞を読む。それだけではただの会社員だ。そのために費やした時間とお金を絶対に仕事で回収しなくてはいけない。そういう意識をもっているかどうかが肝心なのだ。ならばそこで、気づいたこと、学んだこと、考えたこと、実行したことをメモしたり、スクラップしたりするだろう。何にもならないと思ったら、10分間くらいでやめて、もっと役立つことをする時間に費やすだろう。
 お客や取引先のこと、彼らの関心のあることなどがそこに出ていたら、丹念に読むだろう。出張や研修があれば天気予報をチェックするだろう。株価や経済指標などもだいたい頭に入れておく。もちろん、逝去欄(葬式)などは、絶対にチェックすべきことである。その他、テレビやラジオの番組欄、広告などからも、学べることは無限にあるはずである。

 誰もがやっていることのなかで、こういうちょっとした差、もう一歩踏み込むかどうかが、すべてを決めていく。読むだけなら誰でも読める。そこから自分が仕事を通じて、何を生み、何を会社や自分にプラスにするのかを考えなくてはいけない。
 会社は利益を追求する組織だ。利益はなぜあげられるのか、それに自分はどのように関わっているのか、関わり方をどう変えたらもっとよくなるのか――こういうことを常に意識していれば、新聞の読み方一つでさえ変わってくる。
 要は、あなたの意識のもちようなのである。すべてを主体的に動きながらとらえていく。これこそが、サラリーマンの挑戦と革新ということである。



12.「会社に属していることのメリットを再確認する」

 
就労者の大半がサラリーマンである今の日本においては、会社を離れると不利なことばかりである。仕事の経費、交通費、資料代、PR代、交際費などは、すべて自己負担となる。健康保険など福利厚生面の負担もバカにできない。加えて、信用面で失うものも大きく、クレジットカードなどの申請も明らかに通りにくくなる。
 しかし、これらのメリットは、サラリーマンにとってあまりに身近になりすぎたためか、失われてはじめて気づく人が多いという。そんなことでは、自分の客観的な把握はおぼつくまい。

 サラリーマン以外は、こういうものをすべて自分で賄い、それを稼ぐための時間も費やしている。しかも、毎日の仕事をどんなに頑張っても、売上げに結びつかなければ、見返りゼロどころかマイナスということも少なくない。それに対し、サラリーマンは与えられた時間すべてに金銭の保証がついている。これを特権といわずして何といおう。
 そうした認識をもてば、仕事のなかでもオフの時間でも、特権を最大限に利用して、もっと多くを学び多くをつくりあげられるはずだ。

 同じ会社にいるサラリーマン同士でも、その能力は天地ほど違うが、すべては、日々の意識のもちよう、時間の使い方の累積の結果にすぎない。 結果は、プロセスがあってはじめて出てくる。そのプロセスを見直し、変えるための作業をしてみよう。まずは自分の立地点を明確にとらえ、目標を設定することだ。そうすればプロセスをよりよく変革でき、もっと会社をうまく使うための行動力も生じてくる。
 サラリーマンには、大きな既得権益がある。それを強く意識し、会社でのメリットを徹底して活かそう。

 (例) 会社での割引(保険、購入物)/定期/社宅/食費/交際費/健康保険/病院/検診/年金




11.「自分の能力をいかに客観的に評価するか」

 自分の能力をしっかりと評価することは、自立するための第一条件だ。しかしこれがなかなか難しい。
 とくに、今まで順調に自分の仕事をやってこれた人ほど、周囲からどれだけサポートされていたかについてはわかりにくいものだ。自信をもってやってきた人ほど、いかに会社という虎の威を借りていたかわからないことが多い。

 同じ境遇にある人のなかに身を置き、同じ価値観の人とだけ接していると、さらに危ない。ぬるま湯的な居心地のよさにくるまれたまま、キャリアを重ねていると、現実の自己評価ができなくなる。これは警戒すべき事態だ。
 昔、獲得した能力などは、いつまでも通じるものではない。時代も仕事も会社も動いている。スペシャリストとても例外ではない。ボヤボヤしていると、一〇年どころか五年たったら何もできない人になってしまいかねない。一つの技術や能力にしがみつき、それが世の中に必要でなくなるのをわからないことは、よくある話だ。

 つまり、誰もが新しい時代に向けて、生涯、勉強していくしかないのだ。そのつもりがあっても、実際そのように動けないと、明日の我身を危うくする。
 まずは、すぐにそういった能力が発揮できるかどうかよりも、いつでもそういう能力を身に付けようとして働いているかどうかをチェックしたい。もしかして、今のあなたを支えているのは、大学に入り会社に入れたというだけの能力だったということさえあり得るのだから。

・今年、新しく始めたことをあげてみよう
・社内の情報のとり入れについてチェックしよう
・社外の情報のとり入れについてチェックしよう
・会社の新事業に対する知識をあげてみよう
 (新商品・新技術・それらの開発担当者との接触・新しく赴任してきた人との面識)
・最近の流行や用語についてどの程度知っているかあげてみよう
・ここ一年、どういう人と知遇を得たかをあげてみよう



10.「会社は利潤追求のための組織」

 あなたは会社というものが、温かいもの、面倒見のよいものと考えているだろうか。まだ、あなたの生涯をずっと守ってくれるものと信じているだろうか。もちろん、善意で考えれば、そうと言えないこともない。これまでの日本の会社は、かなり面倒見がよいほうだったのは、確かだ。しかし、リストラを例にするまでもなく、いざというときに冷酷な一面があることは否めないのは、ご承知だろう。

 会社は人の集団である。そこにいる一人ひとりはよい人でも、いったん事が生じると、手のひらを返したように冷たくなる。家族に対するのと同様に尽くしながら、裏切られたという思いを抱いた人も少なくないだろう。いったいなぜだろうか?
 それは、あなたが就職した動機にさかのぼって考えてみればわかる。あなたは仕事内容で会社を選んだと言うかもしれない。だが、生計を立てるための給与を伴うからこそ今の会社を選んだはずだ。給与という見返りがなければ入社しなかっただろう。
 そう、ほとんどの人は会社に生活の糧、つまり収入を求めに会社にくる。そして、会社は、給与というかたちでそれを支払っている。言うまでもないことだが、会社とは利益を追求し配分するための組織集団なのである。会社が冷酷な一面をもつのは、この前提があるからだ。
 会社は国でもファミリーでもない。永遠に存在するものでもなく、いつ潰れるかわからない。国家や家族は変わらなくとも、会社は変わる。そういう存在であることを、ここで再確認しておきたい(もちろん、国家も家族も変わるが、会社ほどあからさまではない)。

 しかし、これまで日本の会社は、永久に存在し社員とともに成長するという神話を育ててきた。日本の会社の特徴である終身雇用制はまさに会社が倒れないことを、年功序列も会社が成長し続けることを前提にした制度だった。
 そのため即戦力よりも先の可能性ということで新卒学生を青田買いし、自社にのみ合うように染めあげてきた。そのためこれまでは、自社やその業界しか知らないままに育ってもやっていけた―というより、だからこそやっていけた。
 しかし、もはやそれではダメだということに、誰もが気づきはじめたのである。

 日本は今後、本格的な規制緩和・自由競争・国際競争の時代に突入せざるをえない。企業においても、社員一人ひとりが従来に増して生産的な仕事をしないと、新たな財を生み出せなくなる。仕事ができず、既存の財を食い潰すだけの人は置いてもらえる余裕はなくなる。真の実力社会がやってくるのだ。
 そのことを理解できず、実力を身に付ける努力をしない人は、間違いなく会社の冷酷な面に直接、さらされることになるだろう。もはや、甘えは許されないのである。



9.「常に仕事をつくり出す側の人間になろう」


 組織は、自分の不得意な部分を補ってくれるところだ。だから、やってもらった分は謝礼を払うつもりで行動するとよい。とはいえ、お金で支払うのではない。仕事にあなた自身がプラスした付加価値の部分でお返しする。こういう考え方で動けば、自分も会社も利益を得られる。おたがいがメリットを得られるのが、よい関係である。よい関係であれば、おたがいに支えつつ、うまく続くだろう。

 何でもできるようになれといっているのではない。すべて一人ではできないから、人にやってもらうことこそが、会社の賢い利用法なのだ。まさに、役割分担ゆえに、専門のことに打ち込ませてもらえるのが、サラリーマンの大特権であったはずだ。その代わり、払うべきものは払う。つまり、金で能力を仕入れ補う感覚を身につけておく。これはフリーの発想でもある。

 ところで、人にうまくやってもらうためには、知らなくてはいけないことがある。それは、仕事の「やり方」を知ることより、仕事の「つくり方」を知ることのほうが重要であるという点だ。
 たとえて言うなら、通信添削の問題をつくる人はお金をもらえる。だが、もっとお金を得られるのは、そういう人を見つけてくる人である。その問題に答える人は、正解でもお金はもらえない。払って添削してもらっている。奨学金をもらって、みてもらったり、スクールに通っている人はサラリーマンにも多数いる。

 仕事の真の能力とは、与えられた仕事をただこなすのでなく、まだ仕事として成立していないことさえ、新たな仕事にしてしまえる力である。
 会社にいれば、仕事をやってくれる人はいくらでもいる。そうではなく、あなたは常に仕事をつくり出す側に立つことを心がけよう。そうすれば、いつも主導権を握っていられるだろう。仕事から外されることはない。それは、あなたの仕事だからである。




8.「大きな変革の時代をポジティブにとらえる」

 
日本のサラリーマンにとって、会社とは、国や家族以上に帰属する対象だった。社長や上司は主君であり、会社に忠誠を尽くせば報われる、今頑張れば、あとで報われるということが信じられてきた。このようなシステムの上で、安定した精神状態で仕事に取り組んできたことは明らかであろう。
 ところが、前項で述べたように、これらを成り立たせた要因が根本から崩れてきたために、その持続は困難となった。実際、年功序列制度によって、おのずと出世し肩書きがつくことはなくなりつつある(肩書きの効用もなくなりつつある)。

 たしかに、ある会社に入るのも、ある肩書きを得るのも、それは何らかの努力のたまものである。しかし、そこに自分で自分を価値づけるものをつくり出し、得て、通用させるレベルまでもっていく生き方があってこそ、地位や肩書きに本当の意味が生まれた。本来はそういう生き方こそが重要なのだ。
 この日本的システムが形骸化しつつある今、、同じ努力をするなら、会社や上司の運ですべてが決まってしまうようなものに左右されるより、自分次第という方向へ力を注ぐほうがよいということだ。時代はまさにそうした生き方を求めている。多くのサラリーマンがまだ気づいていないようだが、これは大革命である。

 最近の大企業の年俸制導入や早期退職制度などの導入は、会社もまた、全社員の一生の面倒が見られないと気づいたことを示している。もはやそうした手を打たなくては明日のないところまで会社も追い込まれたのである。それは当然、社員の責任でもあろう。会社は、即戦力となる社員だけを残す方向に急旋回しつつある。
 また、リストラで効果をあげた企業の尻馬にのって、多くの会社が社員の大きな抵抗を受けつつも改革を断行しようとしている。国際化や規制緩和が、黒船のような外圧となり、単独では動きにくい日本でも、それを利用して改革を進めようとしているわけだ。

 従来のサラリーマン社会での個性や自由の発揮というのは、擬似的なものでリスクや責任を伴わないものだった。それだけに、今進みつつある変革は、これまでまげの結い方を比べあっていた世界に、茶髪ありスキンヘッドありといった人たちのいる、現代の日本に放り込まれるほどの大きなショックを伴うことになる。ファッションと異なって目に見えないものだけに厄介だ。

 しかし、こうした流れをネガティブに受け取ってはならない。ようやく一人ひとりが自由で個性的な生き方を享受できる時代がきたと考えよう。それこそが、多くのサラリーマンが望んできたことだったはずだ。だから、明日に生きようとするサラリーマンであれば、ポジティブにとらえ歓迎すべきことなのだ。
 こうしたパラダイムシフトも、自分自身の眼でしっかりととらえ、考え、行動していけば、なんら迷うことはない。会社に何があっても、あなたが大丈夫なら、何とかなるのだから。



7.「会社を超え徹底的に使いこなせ―アーティスト型ビジネスマンのススメ」

 この先、日本がどうなろうと会社がどうなろうと、あなたも私も生きていかなくてはいけない。そして、サラリーマンを続けるにしろ、独立・起業したり自営業に転ずるにしても、現在のビジネス社会では、会社的なシステムなしに生きるのは容易ではない。どうであれ、そのなかか周辺で生きることになるだろう。

 そう考えれば、会社で学んだものは最も活かせるはずである。もっと会社をうまく使えるはずである。
 あなたの意識やものの見方を少し変えるだけで、会社から学んだり、会社を使って得られることはいくらでもある。独立して飲食店をやるにしても、そこに人を雇い、人に接する限り、基本的には会社と同じ原理が働いているのだから。

 サラリーマンの経験には、いわばビジネスをうまく行なうための基本がことごとく詰まっている。
 それならばもう一歩踏み込み、今の会社に所属していることを感謝しつつも、会社との関係をドライにとらえ、そこから得られるものは貪欲にすべて獲得しようではないか。




6.「既存の制度の崩壊−年功序列や終身雇用は成り立たない」

 かつては「気楽な稼業」ともてはやされたサラリーマンも、今やリストラ・倒産の矢面にさらされる立場となった。そんな時代にあって、新たに会社から得られるものは何か、使える部分使えなくなった部分はどこか、などを見ていきたい。まずは、既存のサラリーマンの特権の再考から始めよう。

 日本のサラリーマンを守ってきた代表的な権利が「年功序列」と「終身雇用」だ。たしかにこういった制度は、かつては会社の最も「使える」部分であった。
 年功序列とは、皆、年をとれば出世できるし、収入もよくなるという制度だ。それを全員に享受させるためには終身雇用という前提も必要となる。
 考えるまでもなく、本来こんな制度は、かなり特殊な条件のなかでしか成立しない。たまたま戦後の日本が、そうした条件を兼ね備えていただけである。
 当時の日本人の人口構造を見ると、完全なピラミッド型であり、しかも、日本の戦後はゼロからのスタートだったため、会社はそれを吸収し年々、確実に大きくなった。こうした状況と、農耕社会で横並び志向の強い日本人の性質があいまって、年功序列や終身雇用制が成り立った。

 しかし、今やそれも過去のものとなった。人口構造は逆ピラミッド型となり、日本経済の成長神話も終焉した。にもかかわらず、精神面は横並び・安定志向というように、従来どおりの考え方の人がまだまだ多い。
 時代の変化に対応できない人にとって、現状の「終身雇用」「年功序列」はまだまだ魅力的に見えるだろう。だが、そんな目先の利益にとらわれていては、5年〜10年先には必ずや痛い目に遭う。
 今、考えるべきことは、そうした制度が崩れたときに備え「個」の力を充実させておくことである。とりあえず残存しているこれらの制度を、そのためにこそ利用するという強い意識がほしい。

 制度に依存してなんら努力も意識改革もせずにいるならば、最も「使えていた」部分は、逆に自分をダメにする、最も「使えない」ものになってしまう。だからこそ、今、会社の改革よりも先に自分自身の意識を改革しなくてはいけないのだ。
 終身雇用と年功序列は、サラリーマンの安全パイであったが、同時に個の自由や実力を抑えてきた。これからは、自らの実力で、終身現役や老後の安定を勝ちとることだ。




5.「与えられた仕事に何を付加できるか」


 力をつけるには、あいまいであってはいけない。仕事のうえで何がやりたいか、それをどうやりたいかを考え、最後にどうやれるのかを問う。最後の「どうやれるのか」だけが、現実の結果に反映するものである。
 次に、同じことを他の人がどうやれるのか考えてみる。自分ができることでも他の誰にでもできるし、やりたがっていることなら特別な価値は生じない。どんなによいことや人の役に立つことでも、同じである。

 あなたの仕事も、仮に学生バイトで間に合うなら、そちらの時給が適正な市場価格だ。差額分は、サラリーマンであり正社員であるから、生活の基盤の保証として、プラスされたにすぎない。これが現実である。どのくらいそういう部分があるか、計算してみよう。これで一時間あたり六〇〇〜八〇〇円と出たら、あなたの地位も危険信号である。

 与えられる仕事をこなすのは当たり前であり、常にそこにあなたでないとできない何かを付加することが大切だ。他の誰でもできる仕事にプラスαしたものだけが、自分の力での稼ぎだと思おう。他の人にはできない部分でなくては、手当の価値は生じない。
 たとえば、セールスマンが、一ヵ月で一億円売り上げても、同様の売上げが私にでも可能なら、それはセールスでなく契約事務をやっているだけで、「セールス」というあなた固有の仕事はどこにも出ていないと考えるべきである。

 「研究開発するためのお金がない」という人はこう考えよう。研究開発だけなら他にやれる人もいる、お金の集め方こそが仕事なのだと。こういう発想で仕事ができてこそ、会社にいる意味がある。生きる力がつく。



4.「つぶしがきく人材になるために現場主義を徹底せよ」

 今や、ホワイトカラー不要論が巷を席巻している。これまで日本の会社は、サラリーマンを何でもできるゼネラリスト、温厚な社会人として教育してきた。これが裏目に出ている感がする。
 また、従来の日本の会社の雇用システムでは、マネジャーは現場より一段高い地位として優遇されてきた。そのため、一般にスペシャリティが極まる前に、ゼネラリストとして中間管理職にまわされてしまうケースが多かった。これは、額に汗して労することをいつ知れず低く見てきた会社の大きな誤りである。

 たとえば、現場の刑事がデスクにつかされたとしよう。しかし彼がフリーになれば、使えるのは刑事時代の経験である。現場にいる人は、いつも強いのである。現に、使えるホワイトカラーは、いつもブルーカラーのように現場にはりついている。だからこそ、つぶしもきく。

 たしかに、グローバル化、情報化の波で、単純労働より頭脳労働の価値が高まり、デスクワークが収益性の要となってはいる。また、マルチメディア化により、業態の融合も起こり、たとえば鉄鋼会社から家電メーカーを経て、SE会社への転職などもおかしなことではなくなっている。けれど、これらには、現場に強いデスクワークだからこそつぶしが効くのである。それは、ただの上意下達だけの中間管理職などとは質が異なるのだ。

 必要なのは、一般的に頭がよいことよりも、自分の専門能力を駆使していろんな状況に現実に対応できる人である。さらに、〇から一を生み出す発想力や、一を一〇にできる企画力をもつ人もどんどん認められていくだろう。
 これらはいずれも現場での豊富な経験の裏づけがなければ成立しないものだ。会社における現場での仕事を漫然とこなさず、それこそが自分の専門能力を生み出す貴重な材料だととらえてほしい。

 


3.「大切なのはお金より能力だ」

 もはやサラリーマンは、「永続する」会社に「勤続」して生涯の収入の「保証」を得ることができなくなったと思うことだ。
 これは男性のみならず、女性にとっても深刻なことだ。三高めあての「永久就職」だった結婚は、伴侶が失業する、つまり収入源にならなくなることをも現実的に想定しなくてはいけないものになった。ゆえに、離婚も多くなるに違いない。
 幸せとは、けっして収入や安定からのみもたらされるものではないが、やはりしっかりした生活基盤があることが望ましいのは言うまでもない。

 頑張ったときにはその分だけ大金をもらい、そうでないときはもらわないというのではなく、毎月、給料日にまとめて一ヵ月分を、生涯にわたり少しずつもらうシステムが、日本のサラリーマンの安定した基盤だった。それが今後は年俸制や実力制の導入によって崩れていく。
 しかし、それでも人は、安定した基盤を得たいと思うものだから、自ら工夫するしかない。自助努力あるのみだ。

 ただ、これからの時代に求めるべき基盤は、お金ではなく「能力」であることを忘れてはいけない。お金は能力という基盤を育て上げるための手段として使うものと考えよう。
 お金は使ったら減る。使わなくても減ることさえある。そして一度、使ってしまえばあとには残らない。しかし、能力は使ったら増える。だから、収入ではなく、価値を生み出せる能力だけが、人生を安定させる基盤と考えることだ。

 フリーになれば、収入は価値を創り出さない限り一銭も得られない。だから通帳の入金は、やった仕事の記録となる。これは、サラリーマンよりよほどわかりやすい。
 そこで私は、サラリーマンにも、自分のやっている仕事を外注したらいくらかかるか常に考えるようお薦めしたい。それがあなたが社外に出て稼げる額なのだ。そうすると、多くの人は今の給与の半分くらいになるだろう。ならば、浮いた半分は余分にもらっている奨学金と思って、自分の能力を高めるのに投資しよう。

 資格取得費用でも、人との付き合い費でも、単なる遊び代でもかまわない。要は、それによって自分の何らかの能力が伸びればよいのだ。
 大切なのは、お金ではなくお金になる能力である。これさえあれば、どこにいても永久就職したのと同じである。そのうえ、能力は投資を続ければどんどん高まっていく。いわば、自分株式会社に就職して自分で終身雇用の年功序列制度をつくりあげるようなものだ。




2.「自分は他人に何を提供できるか考えよう」


 手に職をつけることの大切さを再認識してほしい。一昔前なら、王侯貴族でもいつどうなるかわからなかったから、小さなときから必ず何か人様に与えられる技術を学んでいたものである。
 私たち庶民レベルなら、手に職をつけておくということで、散髪屋さんとかアンマさんなどがまさにそうだった。腕一本、ハサミ一本で時間をお金に変えられる。相手に何かを与える代わりにパンが得られる。自分が働いたその分だけお金になるというのは、とてもわかりやすい。

 ところがサラリーマンは、会社が介在しないと自分の力を金銭に還元できない。その仕入れ値も売り値も会社が決めているため、自分の本当の市場価値がわからなくなっている。
 自分の生んだ価値を会社に集金代行をしてもらっているわけだから、能力をどう換金していくのかという最も大切な部分があいまいになってしまうわけだ。その結果、自分の価値づけができなくなる。
 しかし、自分の何に価値があり、何が足りないのか。どうすれば価値を高められるのか―。これを、明確にすべきだ。

 飲食店なら、不味くて高ければ客は嫌な顔をし、二度と来なくなる。しかし、そこから反省し、修正するチャンスも生まれる。サラリーマンも原則は同じはずなのだが、組織に埋没し、一つも仕事も分業しているため、個人としての力が非常にわかりにくい。そのため、フィードバックが疎かになりがちだ。この部分をはっきりさせよう。

 一人の男がいるとしよう。風采のあがらない占い師だ。彼は客に対し、将来を占うというメリットを与えられる。一時間で六人見ることができ、一人から二〇〇〇円もらう。時給一万二〇〇〇円、経費を差し引き、純利八〇〇〇円というとこすだろう。しかし、多くの背広姿の一流サラリーマンは、この程度の額でさえ会社を離れると稼ぐのに一苦労する。学生アルバイトのレベルとさほど変わらず、八時間以上は働かないと稼げない。これはどうしたことだろう。

 会社は、客よせ、集金、計算、振り込みなどをすべてやってくれる。サラリーマンはそのなかの一部の役割を担っているわけだ。だから、客がいないときも、固定の月給をもらえる。でも、客がたくさんいてもそれ以上はなかなかもらえない。それで、どんぶり勘定のようになる。それでも、もらえる額が相対的に他の職より高いときは、それで問題なかった。ところが、これからはそうはいかなくなるから、困るのだ。

 自分の手をじっと見よう。他の人に何を提供できるのか、それをじっくり考えよう。
 さらに、自分がやりたいことは何か、どうやれば実現できるのか考えよう。
 手に職をつけるために自己投資する。会社の外でも中でも、そういう眼で自分を見ることだ。そうすればきっと糸口が見えてくるはずだ。




1.「社会からは逃げられない―会社を使い切ることを考えよう」


 多くのサラリーマンが、いつも心のどこかに突きつけられている問いがある。それは、一生会社に使われるべきか、あるいはどこかでふんぎりを付けて会社を辞めるべきかということだ。
 今の時代、これはけっして他人ごとではない。明日にもクビを言い渡されるかもしれないし、会社そのものが会社を辞める、つまり潰れることもありうるのだから。
 しかし、この問いにはあまり意味がないとも言える。仮に今の会社を辞めて転職しても、次の職場として再び会社を選ぶ人がほとんどだし、脱サラしたとしても、やはり会社と似た組織をつくって社会とかかわっていくことになるからだ。

 会社を辞めたからといって社会から逃げられるわけではない。会社に使われているからといって、そのことがよくないわけではない。それより、今の会社にいるうちに、会社を利用して力をつけることを考えるべきだ。
 つまり、今の会社に「使われ」たり「辞めさせ」られたりすることを心配する次元から、どの会社にいても「自分が会社を使って」仕事をするという次元へステップアップするわけだ。

 この意識改革と実践によって、あなたは会社にではなく、自分の人生に勝つことができる。
 ともかく、これからのサラリーマンは、従来の「会社に依って生きる」という考え方を改めざるをえない。その対処法は、会社に「使われる」のでなく、会社を「使いこなす」人生を選ぶことに集約される。

 会社があって人があるのではない。人があって会社がある。
 だから、会社に使われるのでなく、会社を使いこなすことを心がけよう。
 そうすれば、あなたによって会社が決まることはあっても、会社によってあなたが決まることはなくなる。



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